IRREVERSIBLE

アレックス
(Irreversible)
監督：ギャスパー・ノエ
出演：モニカ・ベルッチ／ヴァンサン・カッセル
2002年／仏／96分／／評価不能

批評　クブリック + ペキンパ = アレックス？

　ファンタ18年の歴史を飾るのがギャスパー・ノエ。というのははたしてどうなんだろうか？
　と、当初は思っていたが、“なんでもやる”のがファンタのノリだとすると、それもまた良いのかもしれん。

　物語は実にシンプルだ。レイプされ重傷を負わされた恋人 (婚約者？) の復讐をする一晩の出来事。ただそれだけ。

　映画はおもむろに全裸の男がベットの上で「娘と寝て刑務所に入れられた」(と字幕ではなっているのだが、これは自分の娘をレイプした、ということなんだろうか？フランス語は全然分からんからなんとも言えん) と独白しているところから始る。
　「取り返しの付かないことをした」人間の独白がこの映画の、物語的最後であり、この映画のテーマでもある。

　この後、カメラはおもむろにぶれまくり、誰かを探していた男が、探し出した男の顔面を消化器 (？) で殴ってつぶすシーンとなる。
　このブレ具合は、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の後半か、それより酷い状態。もはやなにを撮っているんだかさえ分からない。

　このぶれが、映画が進むに連れて徐々に小さくなる。ここで始めて、この映画が結末から最初に向かって、「メメント」のような構成になっていることが分かる。
　それに合わせて、カメラワークが主人公の心理描写を兼ねていることが多い (というよりも、ここまでのすべてが主人公の心理描写とイコール) ことも分かる。錯乱すれば錯乱するほどなにを撮っているのか分からなくなり、冷静な状態であればなにを撮っているのか = なにを考え　これが分かるまでの最初30分は、なにをやってるんだかさぁっぱり分からなかった。

　そして分かり始めてくると、一つの時系列がワンカットで撮影されているということにも気が付く。
　気が付いたところで、ヒロインがホモにアナルを犯されるという強烈なレイプシーン。

　さらに溯るとヒロインと主人公、その友人の関係が徐々に開かされて行き．．．

　回りの人間を脅しながらでも復讐を遂げようとする主人公、顔をつぶされた男(これがテーマにも関わる重要な引っかけになっている)、犯されるヒロイン。この映画は前半に暴力を撒き散らし、レイプから先は一転して人間の性そのものを描き出す。
　恋人と、その友人の間で交わされる猥談は、それまでの暴力と背中合わせの性を物語り、恋人同士のセックスはレイプの対極となる。

　何でもない普通の時間と、何でもない特別な時間。何でもないが故にかけがえの無いそれらを破壊する「取り返しの付かない事態」。
　人生だね。
　「時計仕掛けのオレンジ」の暴力も、「わらの犬」のレイプも、「メメント」のリバース構成もなければ、あるいはもっと衝撃的映画だったかも。

　なお、レイプシーンやセックスシーンは、日本公開時にはカットされボカシが入るそうな。映倫、通りそういないもんな。もろ性器が映るシーンがあるし。

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