Zir-e noor-e maah

月の光の下に
(Under the Moonlight)
監督：レザ・ミル＝キャリ
出演：ホセイン・パラスタル／ハメド・ラジャブアリ／メーラン・ラジャビ
2001年／イラン／96分／／☆☆☆☆☆

批評　近代化と宗教

　国家の近代化と共に、人間の意識には合理主義的思想が芽生える。
　結果として、精神主義を掲げる宗教の社会的な地位はさがる。程度の差はあれ、それがあらゆる国家のあゆむ道なのではなかろうか？

　この映画を見る限り、イランにもその影響を感じる。
　革命によってイスラム教主体の政治形態が完成した国家イラン。そこにおいて、宗教家は非常に権威ある者としてあつかわれる。当然だ。
　しかし現実はどうだろう？

　「聖職者ならえらいんだろ？自分の車に乗れと」と市民に罵倒された聖職者。
　「聖職者は質素に生きよ」と言いながら、自らは携帯電話を持ち歩く聖職者。
　「政治が我らを虐げる、神が我らを救って下さる」と己に言い聞かせるホームレス。

　私はイランの現状を知らない。だから言いきることは出来ない。
　だが、もしこれがイランの“リアルな今”だとしたら、その混乱に我々はなにを見るべきなのだろう？
　政治が人を虐げしとき、人は神になにを祈るだろう？
　政治が宗教を利用しようとしたとき、聖職者はどうすべきなのだろう？

　「権威のために聖衣を着てはいけない」
　「神の掲示が無くとも、一人の人でも救うことが聖職者なのではないだろうか？」

　そうした台詞が飛び出す。
　これはイスラムだけの問題ではない。宗教が、神を救済者としてあつかっている以上、どの宗教にもあてはまる問題だ。宗教家が聖職と呼ばれ、ある程度の権威を、ある程度の尊敬の念を持っている国家において、これは同じ問題として扱うことが出来る。

　映画では、偉大な肉親の影響で聖職者を目指しながらも、しかしどこかで聖職者になることに迷いを感じる学生が、そうした現実を見たとき、己の信仰そのものに疑問を感じることでそれが画かれる。
　そうした疑問は、信仰へのより深い帰依への道として画かれる。最終結論を得たとき、彼は聖職者としての道を選ぶことからもそれは明白だ。

　本来装飾品 = 贅沢品である“指輪”を付け、聖衣を纏い、電車に乗ってホームレスの下に向かうその姿は、宗教と、政治と、己の向かうべき道を、世界に問い掛けているように感じた。

戻る