リリイ・シュシュのすべて
監督:岩井俊二
出演:市原隼人/忍成修吾/伊藤歩
2001年/日本/146分/☆☆☆☆☆
批評 狂おしく、痛々しく、つらく
お互いを隠したまま、親密な人間関係を構築できるという特異性をそなえたインターネット。
そこにあるカリスマ的人気を誇る歌手リリイ・シュシュのファンサイトを仲介に話は進む。
とにかく痛々しい。いじめ、売春、レイプ...この作品にはあらゆる“今”が詰まっている。
同時に、そのはけ口や重さは違えど、抱えている問題は今も昔も本質的に変らないことを痛烈に訴えかける。
そういった意味では、岩井俊二の前作「スワロウテイル」以上の問題作と言えるだろう。
希薄な人間関係、友人との軋轢。家庭環境の悪化から、一気に優等生から転落する同級生。
それらを後ろで支える、恋愛、殺意、嫉妬、恨み、そうしたあらゆる感情がここには存在し、そのはけ口としてリリイ・シュシュ = 音楽が存在する。
音楽を“具現化された希望”として画いた「スワロウテイル」とはまったく対極の存在として音楽を画いているということだ。
なぜなら、好意的に見れば孤独を救うものとして音楽があるが、この映画では「エーテル」という言葉 (この解釈は観客に委ねられている) を発するリリイ・シュシュの人気が、まるでカルト宗教のように画かれているからだ。
孤独を救うというよりは、コミュニティーの中だけで通用する人間関係を作り出させているように、私には見える。
とは言え、この物語を展開するには中学校というのはちょっと無理があったように思う。
高校だとしっくり言ったと思うんだけどね。
画の美しさも相変わらず。シネアルタ (映画用デジタルカメラ) で撮影された画は正直なところ荒れが気になるシーンもあったのだが、個々の画の完成度の高さはさすがに岩井。
この重々しいテーマの映画を展開するのに、ある意味美しい田園風景ほどの物はなかっただろう。
話は変るが、伊藤歩は「のど自慢」の普通の役よりも、こういう毅然とした意志の強い女の子という役の方がよく似合っていると思うのは私だけだろうか?