東京家族
監督:山田洋次
出演:橋爪功/吉行和子/西村雅彦
2012年/日/146分/☆☆☆☆
批評 監督の老い、か?
小津映画の特徴のひとつ、“カメラはフィックス”“レンズは標準”は見事になぞっている。(小津映画も、初期作にはカメラが動くのがあるし、アクションやサスペンス、コメディ作もあるが、ここでは戦後作品を前提とする)
カメラは微動だにしない。
パンもしなけりゃズームもしない。
さすがに、同じ部屋のセットを複数、微妙に大きさを変えて作る、などという凝ったことはやっていないようだが、見事に小津っぽい画だ。
堪能した。
だが、それでも、脚本は「やっちまったな」と思う。
無論、悪い意味で。
致命的なのは、主人公の「田舎から出てきた父親」(退職した元先生) の立ち位置が、はっきりしない事だろう。
「今の世の中は間違っている」「日本はどこで間違えた」「このままじゃいかん」と良いながら、ぐてんぐてんに酔っ払って周りに迷惑をかける様は「お前の行動を客観的に見ろ」としか思えない。
「楽をして生きたいってことだろう」と三男に向かって言い放ち、「楽をして生きられる世の中かよ」と返されるシーンも、その返しについてとくに何も言い返せないし、賛同もしない (この鋭い返しは、最後までそこで放置される) のも、「(本人曰く)間違っている今の世」を、本当に把握できているのか?という疑問を抱かせる。
頑固親父にしては、それほど頑固でもないし、現状認識が微妙にずれた、ただの飲んだくれにしてもおかしいし・・・
元教師、という設定も、なんだか中途半端に浮いている。
このあたり、もっと整理が必要だったのではなかろうか。
また、逆送する自転車に「製作スタッフの自転車に対するスタンスの古さ」を感じるし、横浜インターコンチネンタルホテルも「陸側の部屋は宿泊料金が安い」(高層階ベイブリッジビューの部屋が高い) という事実を無視しているとしか思えない。
最後に「田舎って良いですね」の描写も、なんだかなぁ。
総合でつまらないとは思わないのだが、「足りない」印象の映画であった。