ローレライ
監督:樋口真嗣
出演:役所広司/妻夫木聡/堤真一
2005年/日/128分/☆☆☆
批評 ある意味、現在の日本映画の限界を教えてくれる!?
東京を核攻撃から守れ!
第二次世界大戦末期。"水中透視システム"とでもいうべきおそるべき性能を秘めた、新型水中索敵システム「ローレライ」を搭載した異形の潜水艦イ507と、あり合わせの、異端の乗組員達はこの命令を完遂することが出来るのか!?
「ローレライ・システム」というファンタジーな代物を中核に作られている場合、中核以外は可能な限りのリアリズムで製作されることが望ましい。
特にこの作品では、当時不可能だった水中雷撃を可能にしてしまう「ローレライ・システム」という異常な代物を持ってきているのだから、その"異常性"を強調する為にも、その事は極めて重要だ。
しかし、この映画はその意味で詰めが甘かったと言わざるをえない。
配役と脚本の面で。
物語の重要人物である N 式パイロット折笠裄人(妻夫木聡)と清永喜久雄(佐藤隆太)は、まるで軍人には見えないし、清永喜久雄にいたっては物語上の存在理由も無い。N 式に最後まで乗らんし。
先任の木崎茂房(柳葉敏郎)も、元々あまり演技の幅がある人ではない事もあってか、やっぱり軍人には見えない。眉間にしわ寄せてりゃまじめな顔なのだろうか?
高須成美(石黒賢) は、技術官や諜報員と言う趣ではあるが、南方戦線の地獄を見てきたようには見えない。これは役者のせいではないが、南方戦線の地獄を潜り抜けて、その後、独逸に回って、技官として潜水艦に乗りになったというのも、いったいどういう人物なのか全然分からん。
一応、軍服を着ているために軍人だと分かるが、それだけではリアリズムは生まれない。
艦長の絹見真一(役所広司)や、軍医の時岡纏(國村準)、軍令部の浅倉良橘(堤真一)、らの演技がすばらしいだけに、全体の役作りと言うものを、もうちょっと考えてもらいたかった。
なお物語のキーマンであるパウラ(香椎由宇)は、独逸からの帰国子女なので日本語が余り上手くない、そして日本人に囲まれて緊張気味、という脳内補完を実行した。
ようするに、その程度だ。
脚本は、一言で言ってしまえば"まとまってない"。
連続 TV ドラマのダイジェスト版を見せられている感じ、と言えば分かりやすいだろうか?
全体を構築する個々のエピソードが連続していないし、最後にひとつになることも無い。
日本のビジュアル先行映画 (「リターナー」等) としては、ギリギリ妥協できる...か、な?というところ。
細かいことを考えながら見て良い映画ではないし、そもそも細かいことを考えさせられるような作りにもなっていない。
小説ほどの面白さも迫力もメッセージ性もないが、何の期待もせずに映画館に行って「ま、こんなもんだろう」と思える程度の完成度ではあると思う。
それ以上の出来を期待していたのだけどな、私としては。