春の雪
監督:行定勲
出演:妻夫木聡/竹内結子/高岡蒼佑
2005年/日/150分/☆☆☆
批評 画は綺麗、画だけは素晴らしい
三島由紀夫「豊穣の海」シリーズ第一部「春の雪」の映画化作品。
輪廻転生をテーマにしたこの一連の作品を、かなりオーソドックスな恋愛ドラマにまで単純化してある。
小説冒頭にある日露戦争の話を切ったことにより、社会情勢の説明が不足してしまっている (途中で、戦死した親類の話があるが、あれだけでは弱い) のと、努力の形跡は認められる輪廻というテーマの語り (夢日記が出てくるという事は、後の話も作るつもりなのか?) が弱くな
特に輪廻というテーマに関しては、製作側も失敗を感じていたのか、最後に無理矢理回復させようとナレーションを入れて、かえって着地失敗を加速してしまた感がある。
そこにかぶる宇多田ヒカルの楽曲は、かなりの打撃を観客に与える事だろう。
しかし、こうした全体の作りの歪みは、主人公二人の演技力の前では大した問題ではない。
主人公を演じる妻夫木聡は、そもそも時代劇を演じられるだけの演技力は無かった。
ちょっと凝った言い回しがあると、とたんに詰まる。
しかも、撮影順の問題なのだろうか、凝った言い回しがある場所と、現代平文で読んでいる場所が共存していて、違和感がある。
ヒロインを演じる竹内結子は、物語の殻となる濡れ場が全然ダメ。
当初、事務所の関係か!?イメージ戦略の弊害か!?
と思っていたが (妻夫木聡が脱いでいるのに着物着たままだったりするのは、明らかに不自然)、撮影中、実際に妊娠していた関係で、脱ぐと物語の流れを破壊する大変な事態になるからなのではないかと思われる。
かなり誤魔化してはいるが、ワンピース姿で出てきたシーンはあきらかに「妊娠している」からな。
直後が「実は妊娠」というシーンだっただけに悲しかった。
見りゃぁ誰もが気がつくだろうと。画面に向かって突っ込みを入れたくなる。
と、一見欠点だらけのようなこの映画だが、美術、照明、そしてそれを活かす見事なカメラのおかげで、美しい映像を堪能できる。
他はともかう、映像は本当に美しい。
演技が壊滅していても、脚本に難があっても、抜群に美しい映像があれば、それなりに見られる映画になるのですな。
それを痛感させられる映画であった。