演劇レーベル Bo-tanz第18回公演
A FAREWELL TO GERMS【改訂版】
作/演出:花田智
出演:高梁彰規/木村淳/羽鳥友子
☆☆☆☆

批評 説明しすぎ & 矛盾しすぎ
 「from Under The Junk Metal ステリル」の冒頭で語られた、子供を残せぬ者たち“ステリル”の反乱を画いた物語。外伝的側面が強いか?

 作品単体で見た場合の完成度は高い。
 前半何個所か、演出的・脚本的に弛んだように見える場所もあったが些細な問題だ。
 とは言え、映像部分での音声が聞き取りにくいことや、無線機での会話がノイジー、あるいは割れていて聞き取りにくかった (一部聴解不能) 方が問題だったと思う。

 台詞的には、首謀者 (主導者) である芹田が、「妻は山岳刑務所で終身刑」と言っているのに、交換条件が「死刑を取りやめる」こと。その後、やっぱり「終身刑」になってしまっているのが一番気になった。

 販売されていた脚本を読み返してみると、たしかに合理的説明がされている。
 芹田は、妻が逮捕され「密室裁判で無期懲役」を言い渡され、「悪名高い山岳刑務所」にいる。その釈放を望んでいたのを政府に気づかれ、「従わなければ妻を...」という状況に追い込まれ、ダブルエージェントと化して指揮をとっていたという。
 協力していた政府の作戦が失敗に終わった今、「妻の死刑を取り下げるという約束も反故になった」らしい。
 個人的に思うのは、こういう場合は「従わなかったら殺す」というよりも、「従えば釈放する」というほうが、説得材料としては有効のように思う。
 なにせ無期懲役を執行している場所は「悪名高い」場所なのだ。ただ収容しておくだけ、あるいはそこで「強制労働」させれば十分に死を意識させるのではなかろうか?
 ちなみにエピローグによると「ママは刑務所」らしい。政府はあくまでも脅迫手段として死を口に出したものと思われる。

 個人的に思うのは、芹田の妻のエピソードが最終部分で台詞で語られるだけである以上、よりシンプルにしたほうが観客に分かりやすかったのではなかろうか?
 たとえば、“死刑判決が出て執行待ちの妻”を“その死刑執行を取りやめさせた上、釈放する”という交換条件の方がよりスマートに思う。脅迫手段だったらもっと簡単。“今すぐ死刑を執行する”と言えば良い。


 さらに問題なのは、シリーズ全体として見た場合だ。
 シリーズ全体に関してはもちろん、特に密接なつながりを持つ「ステリル」に関して、説明が多すぎる印象を受ける。
 それも、どちらかといえば説明しなくても良いような部分の説明が多い。ロザリオの話なんてその最たる例ではないだろうか?

 説明だけではなく、つながりという意味でも奇妙な印象を受けた。
 今回の作品において、軍事参謀という ER21 占拠作戦 (と、勝手に呼称する) の中枢にいるにも課かわらず、「ステリル」(舞台) ではそういう印象はまったく受けない。
 「あいつら俺の話を聞こうともしない。ガキだと思って馬鹿にしているのかな?」という台詞から受ける印象は、あくまでも非主流派だ。
 この辺りはどうなっているのだろう?ついでに言えば、「ハイバネーターにつながれた子供たち」(「ステリル」北田元)という台詞も、彼らがあくまでも子供であることを指し示している。
 その上、なんたることか。かなりの人間がいたが最終的に生き残ったのは「30年で5人だけ」(「ステリル」ケイ)という台詞があるのだが、今回の舞台ではそんなに多人数のステリルがいたようには見えない。

 さらに開放ゲートにも謎が尽きない。「ステリル」(舞台)によるとここから数多くのステリルが投降しているらしいし、明確には語られていないが一般人も脱出しているらしい。しかし今回の舞台を見ていると、あのゲートから脱出しようとしても、死にそうに思える。
 また、今回の最後にホットセルと呼称される「セシウム137」とか「ストロンチウム90」等の放射性廃棄物保管庫を爆破し、ER21 地区を放射能汚染するという実に過激な、それでいて有効性の高い手段が用いられた。しかして、そんな事をしてしまって、「ステリル」(舞台)が物語られた60年で放射能は十分に弱まるのだろうか?


 「スターウォーズ/エピソード1」を見るまでもなく、実際問題としてすでに作られた物語より前の時間の話をあとから作り出すのは非常に難しい。
 なぜなら、第一に見ている側はすでに結末を知っているからだ。
 結論において意外性を発揮させることが出来ない以上、途中経過に面白さを作り出すしかない。しかし、すでに設定が作られている以上、ある程度以上の思い切ったことは出来ない。
 まさにがんじがらめの状態で物語を作り出すということだ。
 この作品は、残念ながらその作業に失敗している。

 たしかに作品単体で見た場合に気になった点は、冒頭の部分だけだが (物語の本質に関係ないとは言え、戦術とコンピューター用語には多々突っ込みたくなる場所はあったが)、この作品がシリーズである以上、シリーズ全体を視野に入れて見なければならない。そうするとあまりにも矛盾点が多すぎる。
 そう思わざるえを得なかった。


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